「肩のインナーマッスルを鍛えたほうがいい」と聞いても、どの筋肉を、どうやって動かせばいいのか分かりにくいものです。肩のインナーマッスルとは、肩甲骨から上腕骨につく4つの筋肉(回旋筋腱板・けんばん)を指します。結論からお伝えすると、腱板は大きな力を出す筋肉ではなく、腕の骨を関節の中心に保っておくための筋肉です。ですから重さより、姿勢と可動域が大切になります。この記事では、東海市・太田川駅徒歩4分のTRADパーソナルコンディショニングジムが、種目の選び方とやり方を整理します。
要点まとめ
・腱板は棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つ。腕の骨(上腕骨頭)を関節の中心に保つ働きをします
・筋電図の研究では、横向きに寝て行う外旋で肩の後ろ側(棘下筋・小円筋)の活動が高くなると報告されています
・親指を下に向けて挙げる姿勢(エンプティカン)が危険かどうかは、研究間で結論が一致していません
・痛みがなくても加齢とともに腱板の部分的な断裂が見つかる割合は増えるとされています(50代13%・60代20%という報告)
・最適な回数・頻度を示した質の高い研究はまだありません。軽い負荷で、痛みの出ない範囲を続けることが基本です
肩のインナーマッスル(腱板)とは
腱板は、肩甲骨から出て上腕骨の付け根を包み込むように付く4つの筋肉です。棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)——名前を覚える必要はありませんが、4つが前後からバランスよく引き合っているとイメージしてください。
肩関節は、浅いお皿の上にボールが乗っているような構造をしています。腕を上げるときに大きな力を出すのは表層の三角筋ですが、その力に対してボールがお皿の中心から外れないように保つのが腱板の役割だと考えられています。土台がずれたまま強い力をかければ、動きの効率は落ちます。
なお、肩を上げるには肩甲骨と胸郭(肋骨まわり)の動きも必要です。そちらは50代から肩が上がりにくくなる理由|肩甲骨と胸郭の動きを取り戻すでご紹介しています。この記事は「関節を安定させる筋肉」、あちらは「肩甲骨を動かす筋肉」という役割分担です。
40〜60代が知っておきたいこと
少し意外に思われるかもしれませんが、痛みのない肩でも、加齢とともに腱板の部分的な断裂が見つかる割合は増えると報告されています。症状のない方411名を超音波で調べた研究では、断裂が見つかった割合は50代で13%、60代で20%、70代で31%、80代以上で51%でした(Tempelhof et al. 1999)。
日本の一般住民683名(1,366肩・平均57.9歳)を対象とした調査でも、腱板断裂の有病率は全体で20.7%、症状のある方で36%、症状のない方でも16.9%という結果でした(Yamamoto et al. 2010)。
不安を煽りたいわけではありません。むしろ逆で、断裂があっても痛みなく過ごしている方が相当数いるということです。どちらもある集団の調査であって、読者ご自身の確率を示すものではありません。ここから読み取れる実務的な意味は、肩は年齢とともに変化していく前提で、痛みが出る前から動かして状態を保っておく価値があるということです。
どの種目が腱板に効くのか
種目選びには、筋電図(EMG)で筋肉の活動量を測った研究が参考になります。健常な成人10名を対象にした研究では、横向きに寝て肘を体に固定したまま行う外旋で、棘下筋62%MVIC・小円筋67%MVICと高い活動が記録されました(Reinold et al. 2004)。
ただし注意も必要です。同じ研究では、うつ伏せでの水平外転など活動量が高い種目では三角筋も同時に強く働いていました。「腱板だけを取り出して鍛える」ことはできません。対象も健常な成人10名の実験室での測定で、40〜60代や肩に不調のある方で同じ結果になるかは分かっていません。
エンプティカンをめぐる話
親指を下に向けて腕を斜め前に挙げる姿勢を「エンプティカン」(缶を空けるような形)と呼びます。「これは避けたほうがいい」という説明をよく見かけますが、研究の側は一致していません。
健常男性12名の研究では、90度挙上時の棘上筋の活動はフルカン(親指を上)で35.4%MVC、エンプティカンで62.8%MVCと、エンプティカンのほうが高い値でした(Kai et al. 2015)。一方、被験者15名の研究では、エンプティカンもフルカンも棘上筋だけを選んで働かせられるわけではなく、他の肩の筋肉が同程度かそれ以上に活動していたと報告されています(Boettcher et al. 2009)。
また「エンプティカンは肩のスペースを狭めるから危険」という説明もありますが、症状のある方28名と対照28名を比べた研究では、肩峰下距離に姿勢間・群間の差は見られませんでした(Timmons et al. 2013)。
そこでTRADでは、危険だから禁止という言い方はしていません。実務的には痛みの出にくい姿勢から始めればよいと考えており、横向きでの外旋や、肘を体につけたチューブの外旋を入口にしています。
ウォールスライドは腱板向けではありません
壁に沿って腕を滑らせるウォールスライドは、肩甲骨まわりの運動としてよく紹介されます。ただし健常な成人16名の測定では、この運動中の棘上筋の活動は15%MVIC程度と腱板の活動量としては大きくないと報告されています(Edwards et al. 2021)。肩甲骨の動きには意味のある種目ですが、腱板を狙う目的では別の種目が必要です。
基本の3種目
いずれも重さは要りません。ペットボトルや軽いチューブで十分です。痛みが出る範囲までは動かさないでください。
ステップ1|横向きで外旋(左右各8〜10回×2セット)
横向きに寝て、上になった腕の肘を90度に曲げ、脇に軽く挟んだタオルを落とさないように固定します。前腕だけを天井方向へ開き、ゆっくり戻します。肘が体から離れると別の運動になってしまうので、脇のタオルが目印です。
負荷は500mlのペットボトル程度から。上げるときより、戻すときをゆっくりにするのがコツです。
ステップ2|立って外旋(左右各8〜10回×2セット)
チューブをドアノブなどに固定し、肘を90度に曲げて脇にタオルを挟みます。おへその前から外側へ、前腕を開くように動かします。体をひねって代用しないよう、みぞおちを正面に向けたまま行ってください。
チューブが伸びる距離ではなく、肩の付け根が動かないことを優先します。
ステップ3|立って内旋(左右各8〜10回×2セット)
同じ姿勢から、今度は外側からおへその前へ引き寄せる方向に動かします。これは肩甲下筋という前側の腱板を働かせる動きです。外旋だけを行うと前後のバランスが偏るため、両方向を組み合わせます。
回数と頻度の目安
正直にお伝えすると、「週何回・何セットが最適か」を示した質の高い研究はまだありません。腱板に関連する肩の痛みへの運動療法について22件のランダム化比較試験(計1,281名)を検討したレビューでは、運動の種類による差はわずかに見られたものの、強度についてはエビデンスの確実性が低く、頻度と期間を比較した試験は見つからなかったと報告されています(Lafrance et al. 2024)。
一般的な目安としては、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が筋力トレーニング全般について週2〜3日を推奨しています(腱板に特化した推奨ではありません)。この範囲で、翌日に痛みや強い張りが残らない量から始めるのが現実的です。
なお、肩の痛みがある方を対象にした研究では、腱板や肩甲骨まわりの運動を理学療法士の個別指導のもとで週5〜6回・12週間続けたグループは、そうでないグループより手術を選んだ割合が少なかったという報告があります(Holmgren et al. 2012)。ただしこれは6か月以上の保存療法が効かなかった方への専門的なプログラムで、この記事でご紹介する自主的な運動と同じものではありません。同じ結果を期待できるという意味ではない点にご注意ください。
やめておいたほうがよい場合
次のような場合は、運動を続けずに医療機関へご相談ください。
・強くぶつけた、転んだあとに痛みが出た
・急に腕が上がらなくなった、力が入らない
・夜も眠れないほどの痛みが続いている
・しびれを伴う、腫れや発熱がある
また、運動中に痛みが出る場合は、可動域を小さくするか、その日は中止してください。痛みを我慢して回数をこなすことに意味はありません。
参考にした主な研究・ガイドライン
・厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:筋力トレーニングについて(e-ヘルスネット)
・Reinold et al.(2004)実験研究(筋電図)/Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy(PubMed)
・Boettcher et al.(2009)実験研究(筋電図)/Journal of Science and Medicine in Sport(PubMed)
・Timmons et al.(2013)実験研究(バイオメカニクス計測)/Clinical Biomechanics(PubMed)
・Holmgren et al.(2012)ランダム化比較試験/BMJ(PubMed)
・Lafrance et al.(2024)システマティックレビュー・メタアナリシス/Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy(PubMed)
・Tempelhof et al.(1999)前向き臨床研究(超音波検査)/Journal of Shoulder and Elbow Surgery(PubMed)
・Yamamoto et al.(2010)横断的疫学調査/Journal of Shoulder and Elbow Surgery(PubMed)
・Kai et al.(2015)実験研究(筋電図)/Asia-Pacific Journal of Sports Medicine, Arthroscopy, Rehabilitation and Technology
・Edwards et al.(2021)実験研究(筋電図)/International Journal of Sports Physical Therapy
よくある質問
Q. 肩のインナーマッスルはどのくらいの重さでやればいいですか?
腱板は大きな力を出す筋肉ではないため、重さはほとんど必要ありません。500mlのペットボトルや軽いチューブから始めてください。重くすると肘が体から離れたり、体をひねって代用したりして、狙った場所から外れやすくなります。上げるときより戻すときをゆっくりにするほうが有効です。
Q. 週に何回やればいいですか?
「週何回・何セットが最適か」を示した質の高い研究はまだありません。22件のランダム化比較試験を検討したレビューでも、頻度と期間を比較した試験は見つからなかったと報告されています(Lafrance et al. 2024)。一般的な目安として、厚生労働省の運動ガイドは筋力トレーニング全般に週2〜3日を推奨しています。翌日に痛みや強い張りが残らない量から始めてください。
Q. 親指を下に向けて腕を上げる運動は避けたほうがいいですか?
研究間で結論が一致していません。エンプティカンのほうが棘上筋の活動が高いという報告がある一方(Kai et al. 2015)、どちらの姿勢も棘上筋だけを選択的に働かせるものではないという報告(Boettcher et al. 2009)、肩峰下距離に差がなかったという報告(Timmons et al. 2013)もあります。「危険だから禁止」ではなく、痛みの出にくい姿勢から始めるのが実務的です。
Q. 痛みがなくても腱板は切れているのですか?
症状のない方を調べた研究では、腱板の部分的な断裂が見つかる割合は50代13%、60代20%、70代31%と報告されています(Tempelhof et al. 1999)。日本の一般住民の調査でも、症状のない方の16.9%に見つかっています(Yamamoto et al. 2010)。これはある集団の調査であってご自身の確率を示すものではありません。断裂があっても痛みなく過ごしている方が相当数いる、という受け止め方が実際に近いものです。
Q. 肩こりにも効きますか?
腱板の運動が肩こりを改善すると示した研究をご紹介できるわけではありません。ただし肩の張り感の背景に、肩甲骨や胸郭の動きの少なさが重なっていることはよくあります。腱板は関節を安定させる筋肉、肩甲骨まわりは肩を動かす筋肉と役割が違うため、どちらが必要かは実際に動きを確認してからのほうが確実です。
肩の状態を確かめてから始める|東海市のパーソナルトレーニングジムTRAD
肩の不調は、腱板・肩甲骨・胸郭・姿勢のどこから来ているかで、必要な運動が変わります。TRADは姿勢・動作の評価から始め、いまのお体で無理なくできる範囲からご案内しています。
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