「肩甲骨はがし」は、医学の用語ではありません。肩甲骨は肋骨の上をすべるように動く骨で、はがれているわけでも、くっついているわけでもありません。ですから「はがす」という処置は存在しません。では言葉のもとになっている「肩甲骨が動かない感じ」はどうすればよいのでしょうか。研究を読むかぎり、肩甲骨まわりを自分で動かす運動には、首の痛みに上乗せで改善が出たという報告があります。一方で、肩甲骨の動きの乱れは、症状のない方の約半数にも見られることも分かっています。東海市・太田川駅から徒歩4分のTRADパーソナルコンディショニングジムが、言葉の中身と、自分でできることを整理します。
要点まとめ
・「肩甲骨はがし」は通称で、対応する学術用語はありません。骨をはがす処置ではありません
・肩甲骨の動きの乱れは、症状のない方でも48%に見られます(34件・2,365名の集計)
・症状のある方でも60%ですので、動きの乱れがあること自体は「異常」とは言えません
・ただし、症状のないアスリートでは、動きの乱れがある方の肩の痛みの発生リスクが43%高いという報告があります
・慢性の首の痛みがある66名の試験では、首の運動に肩甲骨の安定化運動を足した群のほうが、痛みや首の可動域が改善しました
・肩甲骨への介入を調べた8件の分析では、痛みは改善しましたが、生活のしづらさ(障害度)には差がありませんでした
・TRADは施術ではなく運動指導でご対応します。はがすのではなく、動かして使えるようにする考え方です
「肩甲骨はがし」という言葉について
調べたかぎり、この言葉に対応する学術用語や研究は見つかりませんでした。日本語のメディアや施術の宣伝で使われる通称です。
もう少し正確に体の話をします。肩甲骨は、鎖骨を介して胸骨とつながっているだけで、背中側では骨と骨がつながっていません。筋肉に支えられて肋骨の上をすべるように動く、少し変わった骨です。ですから「はがす」という表現は、手を差し込んで肩甲骨の内側を持ち上げる感覚を言い表したものだと考えられます。感覚としては分かりやすい言葉ですが、骨の状態を説明したものではありません。
大切なのはここです。肩甲骨が動きにくいと感じるとき、問題は「くっついていること」ではなく「動かす筋肉が働いていないこと」のほうが多くなります。だとすれば、やることは運動になります。
肩甲骨の動きが乱れているのは、珍しいことではありません
肩甲骨の動きの乱れは、専門的にはスキャプラ・ディスキネジスと呼ばれます。腕を上げ下げしたときに、肩甲骨の内側の縁が浮いたり、動き出しが早すぎたりする状態です。
34件の研究・合計2,365名を集めたレビューがあります(Salamh et al. 2023)。
・症状のある方…全体で60%(競技者81%、一般の整形外科受診者57%)に動きの乱れがありました
・症状のない方…全体で48%(競技者42%、一般の方59%)に動きの乱れがありました
・原典の結論は「動きの乱れは、症状のない方のおよそ半数に見られる正常な所見なのかもしれない」というものです
・論文のタイトル自体が「スキャプラ・ディスキネジスを正常と扱うべき時ではないか」と問いかけています
この数字を見ると、「肩甲骨の動きが左右で違う」と指摘されたからといって、それが痛みの原因だと決めつけることはできません。肩の左右差についても同じことが言えます。詳しくは肩の高さが左右で違うのはなぜ?でご説明しています。
ただし、無関係でもありません
症状のないアスリートを追跡した5件の研究(419名)をまとめた分析では、次の結果が出ています(Hickey et al. 2018)。
・動きの乱れがある方…35%(160名中56名)が追跡期間中に肩の痛みを経験しました
・動きの乱れがない方…25%(259名中65名)が肩の痛みを経験しました
・9〜24か月の追跡で、リスク比1.43(95%信頼区間1.05〜1.93)=43%高いという結果でした
ここで数字の見え方に注意が要ります。43%高いと聞くと大きく感じますが、動きの乱れがない方でも4人に1人は痛みを経験しています。そして対象はアスリートですので、デスクワーク中心の40〜60代の方にそのまま当てはまるとは限りません。
肩甲骨まわりを動かすと、首の痛みはどうなるか
1. 首の運動に足すと、上乗せの改善がありました
慢性の首の痛みと肩甲骨の動きの乱れがある66名を、首の運動だけ・首の運動+肩甲骨の安定化運動・対照の3群に無作為に分けた試験があります(Javdaneh et al. 2021)。6週間後の結果です。
・痛みの強さ…組み合わせた群のほうが有意に改善しました
・肩甲骨の下方回転の指標…組み合わせた群のほうが有意に改善しました
・頭が前に出る角度…組み合わせた群のほうが有意に改善しました
・首の前後の可動域…組み合わせた群のほうが有意に大きくなりました
原典の結論は「慢性の首の痛みのリハビリで肩甲骨に着目することは、症状の改善に効果的である」というものです。首だけを見るより、肩甲骨まで含めたほうがよい、ということになります。
2. ただし「生活のしづらさ」は変わりませんでした
8件のランダム化比較試験・313名を集めた分析では、結果が分かれています(Chen et al. 2024)。
・痛みの強さ…介入した群のほうが改善しました(中等度のエビデンス)
・首の障害度(生活のしづらさ)…有意な改善はありませんでした(標準化平均差0.24、95%信頼区間 −0.14〜0.62)
・圧痛閾値…変化はありませんでした
・頭が前に出る姿勢は改善する可能性が示されました
ただし、この数字はそのまま受け取れません。痛みの効果量は標準化平均差2.55(95%信頼区間0.97〜4.13)と不自然に大きく、信頼区間も広い数値です。研究の数が少なく、ばらつきが大きいことの表れだと考えられますので、この数字を「絶大な効果」と読むべきではありません。痛みは軽くなる可能性があるが、生活のしづらさが変わるとまでは言えない、というのが妥当な読み方です。
3. デスクワークの方への運動全般
こちらは肩甲骨に限らず、運動全般を見た分析です。慢性の首の痛みがあるオフィスワーカーを対象にした8件の試験をまとめた分析では、首・肩・肩甲骨の筋肉を鍛える運動で、痛みと障害度が有意に減りました(Jones et al. 2024)。ただし原典は、8件すべてがバイアスリスクが高く、エビデンスの確実性は低いと明記しています。
座り方そのものについてはデスクワークの正しい座り方でご説明しています。
他人の手で動かしてもらうのはどうなのか
肩まわりの徒手的な手技についても研究があります。上肢・下肢の運動器の不調に対する手技を検討したレビュー(Southerst et al. 2015)では、6,047件から吟味の対象になったのは7件で、そのうちバイアスリスクの低い研究は3件だけでした。
・原因の特定できない肩の痛み…通常のケアに首・胸の手技を加えると、本人が感じる回復が改善する可能性があります
・腱板がはさまれるタイプの肩の痛み…肩のプログラムに首の手技を加えても、上乗せの効果はありませんでした
・原典の結論は「現在のエビデンスは限定的である」です
まとめると、手技にも報告はありますが、場面によって効く・効かないが分かれ、質の高い根拠は限られています。「はがせば治る」という説明を支える研究は見つかりませんでした。
なおTRADは運動指導を行う施設で、医療機関でも施術院でもありません。痛みの原因を判断することはできませんし、体重をかけて押すような手技は行いません。
自分で肩甲骨を動かすには
「はがす」のではなく、動かす筋肉に仕事をさせるという発想に切り替えます。順番はこうです。
1. 今どこまで動くかを知る…壁に背中をつけて立ち、腕を横から上げていきます。どこで肩が上にすくむか、どこで腰が反るかを見ます
2. 胸まわりを動かす…肩甲骨は肋骨の上を動きますので、土台の胸が丸まったままでは動く範囲が出ません
3. 肩甲骨を「寄せる」より「回す」…寄せる動きだけを練習すると、腕が上がる動きにはつながりません。壁に沿って腕を滑らせながら、肩甲骨が上・外へ回っていく感覚を作ります
4. その形で軽く力を出す…動く範囲が出たら、そこで支える練習に進みます
やってみるなら、壁スライドを1つだけ。壁に背中とお尻をつけて立ち、両ひじを90度に曲げて手の甲を壁につけます。手の甲を壁から離さないまま、ゆっくり腕を上げていきます。腰が反ったところ、または手の甲が壁から浮いたところが今の限界ですので、そこで止めて下ろします。5回で構いません。上げるときに肩がすくむ方は、肩を下げようとするより、先に息を吐いて肋骨を下げてから上げてみてください。
そのほかの種目は肩甲骨が硬い人の特徴と動きを取り戻すエクササイズでご紹介しています。肩が前に出ている方は巻き肩の原因と改善方法、腕が上がりにくい方は50代から肩が上がりにくくなる理由もあわせてご覧ください。肩こりそのものの背景は肩こりが慢性化する本当の理由でご説明しています。
こんなときは運動を止めてください
腕を上げると強い痛みが出る、夜に痛みで目が覚める、腕や手にしびれが出る、腕が上がらなくなったという場合は、運動を続けずに医療機関にご相談ください。肩の不調には運動でご対応できる範囲と、そうでない範囲があります。TRADで原因を判断することはできません。
TRADでのご案内の仕方
TRADでは、肩甲骨の位置を「正しい位置に戻す」という言い方をしません。症状のない方の約半数にも動きの乱れがあるのですから、見た目を基準にしても意味が薄いと考えています。
確認するのは動きです。姿勢と動作の評価で、腕を上げたときに肩甲骨がどう動くか、胸の背骨がどこまで動くか、支える力が出るかを見ます。そのうえで、動かす練習と支える練習をその方の順番で組みます。東海市・太田川駅から徒歩4分、完全個室のマンツーマンですので、自分では見えない背中の動きをその場でお伝えできます。
参考にした主な研究・ガイドライン
・Salamh et al.(2023)システマティックレビュー/International Journal of Sports Physical Therapy(PubMed)
・Hickey et al.(2018)システマティックレビュー+メタ分析/British Journal of Sports Medicine(PubMed)
・Javdaneh et al.(2021)ランダム化比較試験/Journal of Clinical Medicine(PubMed)
・Chen et al.(2024)システマティックレビュー+メタ分析/BMC Musculoskeletal Disorders(PubMed)
・Jones et al.(2024)システマティックレビュー+メタ分析/Applied Ergonomics(PubMed)
・Southerst et al.(2015)システマティックレビュー/Chiropractic & Manual Therapies(PubMed)
よくある質問
Q. 肩甲骨はがしは効果があるのですか?
「肩甲骨はがし」という言葉に対応する学術用語や研究は見つかりませんでしたので、この呼び名の施術について効果をお伝えすることはできません。分かっているのは、肩甲骨まわりの運動を首の運動に加えると首の痛みに上乗せの改善が出たという報告があること、そして肩の徒手的な手技については場面によって効果が分かれ、質の高い根拠が限られていることです。
Q. 肩甲骨は本当にはがれるのですか?
はがれるものではありません。肩甲骨は背中側では骨とつながっておらず、筋肉に支えられて肋骨の上をすべるように動く骨です。くっついているわけではないので、はがすという処置も存在しません。「はがす」という言葉は、手を差し込んで肩甲骨の内側を持ち上げる感覚を言い表したものと考えられます。
Q. 肩甲骨の動きが左右で違うと言われました。問題でしょうか。
それだけで問題と決めつけることはできません。34件の研究・2,365名を集めたレビューでは、症状のない方でも48%に肩甲骨の動きの乱れが見られました。症状のある方でも60%です。ただし、症状のないアスリートを追跡した分析では、動きの乱れがある方の肩の痛みの発生リスクが43%高いという報告もあります。見た目の左右差より、動きと痛みの有無を確認するほうが実際的です。
Q. 肩甲骨を寄せる運動をすれば良いのですか?
寄せる動きだけでは足りません。腕を上げるときには、肩甲骨は寄るのではなく上と外へ回っていきます。寄せる練習だけを繰り返しても、腕が上がる動きにはつながりにくくなります。土台になる胸の背骨を動かすこと、肩甲骨が回る範囲を作ること、その形で支える力を出すこと、という順番で進めていただくとよいでしょう。
Q. ストレッチだけで肩こりは軽くなりますか?
断定はできません。慢性の首の痛みがあるオフィスワーカーを対象にした8件の試験をまとめた分析では、首・肩・肩甲骨の筋肉を鍛える運動で痛みと障害度が減りましたが、原典は8件すべてがバイアスリスクが高く、エビデンスの確実性は低いと明記しています。ゆるめることと使えるようにすることは別ですので、伸ばすだけで終わらせず、支える練習も入れていただくことをおすすめします。
姿勢評価つき無料体験は9月末まで|東海市のパーソナルトレーニングジムTRAD
肩甲骨の動きは、自分では見えない場所にあります。TRADは、鍛える前に姿勢・動作を評価して「どこが動いていないか」を確かめるところから始める完全個室のパーソナルジムです。太田川駅から徒歩4分、駐車場もございます。姿勢評価つきの体験(約90分)は9月30日のご来店分まで無料で、10月1日以降は2,750円(税込)となります。9月中にご入会の方は入会金11,000円(税込)が0円、トレーニングチケット1回分をお付けします。
その場でのご契約はお願いしていません。内容を見たうえで、じっくりご検討ください。ご予約は公式LINE、または予約サイト(空き状況を見る)から承っています。

