「筋トレ中は息を止めるな、と言われたのですが、重いものを持つと自然に止まってしまいます」。40〜60代で運動を始められた方から、よくうかがうお話です。先に結論をお伝えします。厚生労働省のガイドは「血圧の急激な上昇を抑えるために、息をこらえないように注意してください」と書いています。いっぽうで、「息を止めると危険だ」と確かめた研究は、実はまだありません。だからTRADは「止めないこと」を目標にするのではなく、「止まらない強度で行うこと」を先に置いています。この記事では、東海市・太田川駅から徒歩4分のTRADパーソナルコンディショニングジムが、研究で分かっていることと、現場での実際の対処をご説明します。
要点まとめ
・厚労省ガイド2023の記載は「息をこらえないように注意してください」です。吸う・吐くという向きの指定はありません
・研究で確かめられているのは「息を止めると、呼吸を続けるより血圧が高くなる」ことです
・ただし「止めると健康を害する」ことは確認されていません。レビューの結論は「リスクは未確認」です
・軽い重さでも無関係ではありません。自重〜50%程度の軽めのスクワットでも、息を止めると収縮期血圧が16〜23%高くなったという報告があります
・「吐く」が「吸う」より血圧の面で有利だという根拠はありません。20名の比較研究では、挙げる局面で吸っても吐いても血圧の上がり方は同程度でした
・完全にゼロにはできません。最大挙上重量の80%を超える重さや、限界まで繰り返すときは、一瞬の息こらえは避けにくいと複数の文献が述べています
・だからTRADは「余裕を残して終える」を先に置きます。止まるほど力む強度を選ばないのが現実的です
・血圧・心臓・脳血管・目の病気がある方、妊娠中の方は、必ず主治医にご確認ください。TRADは診断を行いません
まず、公的機関は何と書いているか
最初に、いちばん信頼できる記載から確認します。厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月・46ページ)の、筋力トレーニングについてのQ&Aにこうあります。
「自宅で実施する場合は、無理せずに『できなくなるところまで実施する』が、最も簡単な目安だといえます。また、血圧の急激な上昇を抑えるために、息をこらえないように注意してください。」
読んでいただくと分かるとおり、「息をこらえない」という注意だけで、吸うか吐くかという向きの指定はありません。ちなみに、このガイドの全文に「バルサルバ」という用語は一度も出てきません。
もう1つ、厚生労働省の「高血圧の人を対象にした運動プログラム」という2ページの資料にも、同じ趣旨が書かれています。「筋力トレーニングの際は、息をこらえないように注意してください。」、図の中には「筋力トレーニングをおこなう時には、息を止めないように注意しましょう。」とあります。あわせて「運動中に収縮期血圧が200mmHg(拡張期血圧は105mmHg)を持続的に超えないように注意してください。」という記載もあります。
米国スポーツ医学会(ACSM)の解説ページにも記載があります。重量を持ち上げながら息を吸って止めること(バルサルバ法)は「極めて高い血圧反応、めまい、さらには失神」を起こしうるので、レジスタンストレーニング中は避けるべきという内容です。こちらにも、吸う・吐くの向きの推奨は書かれていません。
では、実際にどれくらい血圧が上がるのか
ここでよく引用されるのが、1985年に Journal of Applied Physiology に出た研究です。上腕の動脈に直接カテーテルを入れて測ったという、現在ではなかなか行われない方法の研究です。
結果の数字は強烈です。両脚のレッグプレスで、血圧の群平均は320/250mmHg。1名は480/350mmHgを超えました。片腕のアームカールを限界まで繰り返したときの群平均も255/190mmHgでした。
ただし、この数字を見て不安になる前に条件を必ず確認してください。対象は経験豊富なボディビルダー5名で、最大挙上重量の80〜100%の重さを、挙がらなくなるまで行ったときの値です。
40〜60代で運動を始められた方の数字ではありません。TRADがこの研究を挙げるのは「あなたもこうなる」という話ではなく、限界まで力むとそれだけのことが起こりうる、という上限を知っておいていただくためです。
なお、この研究自身が、血圧の上昇は息こらえだけが原因ではないと述べています。筋肉が血管を機械的に圧迫すること、強い昇圧反応、そしてバルサルバ反応——この3つが組み合わさって起こるというのが原著の結論です。つまり「息を止めなければ血圧は上がらない」わけではありません。
軽い重さなら関係ないのでは?
「自分は軽い重さでやっているから大丈夫でしょう」とお考えになるかもしれません。ここについて、2026年に Physiological Reports に出た研究があります。
健康な若い女性17名を対象に、スクワットを自重・10回挙上重量の25%・50%という軽〜中くらいの3つの強度で行い、挙げる局面で息を止める条件と、呼吸を続ける条件をランダムな順番で比べたものです。
結果はこうでした。息を止めた条件では、呼吸を続けた条件に比べて——
・収縮期血圧が16〜23%高い
・心拍数が2〜5%高い
・心拍出量が3〜8%多い
・本人が感じるきつさが14〜19%高い
・いっぽうで酸素の取り込みは11〜15%、換気量は16〜17%少ない(終わったあとに増えて取り戻す形になります)
つまり軽い重さでも、息を止めれば血圧の上がり方は変わります。しかも同じ運動がきつく感じられます。この「きつく感じる」は、運動を続けていくうえで地味に効いてくる差だと思います。
ただし、この研究の結論は「危険だ」ではありません。原著は「健康な若い女性では、これらの反応は危険とは言えない範囲にとどまった。短く制御された息止めは、筋力トレーニング中の実行可能で安全な方法になりうる」と書いています。17名・健康な若年女性という条件つきの結論ですので、そのまま40〜60代に当てはめることはできません。
「吐く」のが正しいのか? 根拠を確かめました
よく「上げるときに吐いて、下げるときに吸う」と指導されます。TRADでもこの言い方をすることがあります。では、その根拠はどこにあるのでしょうか。
調べた結果、血圧の面で「吐くほうが有利」という比較研究は見つけられませんでした。
1992年に British Journal of Sports Medicine に出た研究があります。筋トレ初心者の男性20名に、アームカールと両膝の伸展運動を3つの異なる呼吸方法で行わせて血圧を比べたものです。
結果は明確でした。息を止める方法(バルサルバ法)が、どちらの種目でもいちばん血圧が高くなりました。そして挙げる局面で吸った場合と、挙げる局面で吐いた場合の血圧の上がり方は同程度でした。原著は「挙げる局面に吸気を組み合わせることは、呼気を組み合わせることに対して、心血管系の利点を何ももたらさない」と結論しています。
また、厚労省のガイドも運動プログラムも、ACSMの解説も、向きは一切指定していません。「息をこらえない」「止めない」と書いてあるだけです。
ですので、TRADはこう考えています。向きよりも、止めないことが大事です。そして「上げるときに吐く」という言い方を使うのは、科学的に正しいからではなく、その言い方をすると実際に止まりにくいからです。現場で使いやすい指導として採用している、という位置づけです。
なお、挙げる局面で吸いながら行うと挙上できる重さが落ちる傾向を示した研究はあります(いずれも少人数の経験者が対象です)。「吸うのが危険」ではなく、「吸うのは力が出にくい」という方向の話です。
「息を止めたほうが腰を守れる」という説について
逆の立場の主張もあります。「息を止めて腹圧を高めたほうが背骨が安定する」という考え方です。これはどこまで言えるのでしょうか。
2013年に Journal of Strength and Conditioning Research に出たレビューが、この点を正面から検討しています。結論を要約すると、バルサルバ法は確かに腹腔内圧を高め、それが筋トレ中の背骨の安定と体幹の固さを助ける可能性がある——ここまでは認めています。
そして、そのあとに続く一文が重要です。「筋トレ中のバルサルバ法に伴う健康上のリスクは、未確認のままである」。つまりこのレビューは、「危険だ」とも「安全だ」とも結論していません。
腹腔内圧と背骨の固さについては、2005年に Journal of Biomechanics に出た実験がよく引用されます。横隔膜を電気で刺激して、腹筋や背筋を働かせずに腹腔内圧だけを上げるという特殊な方法で、腹腔内圧が最大の27〜61%上がったときに、腰の背骨の固さが安静時の8〜31%増えたという結果でした。
ただしこれは「息を止めた実験」ではありません。電気刺激で腹腔内圧だけを分離して上げたという、仕組みを確かめる実験です。しかも人数はごく少数で、「息を止めると腰を痛めにくい」ことを示したものでもありません。腰を痛めにくさで比較した研究は、見つけられませんでした。
そしてもう1つ注意点があります。「息を止めないブレーシングなら血圧は上がらない」とも言えません。呼吸を続けたまま腹部を固める方法でも、収縮期血圧は上がったという報告があります。腹圧の作り方そのものについては腹圧の入れ方|ドローインとブレーシングの違いと40〜60代の始め方でご説明しています。
完全にゼロにはできません
ここが、実際にやってみると誰でも気づくところです。重いものを持つと、息は自然に止まります。
これは意思が弱いからではありません。先に挙げた2013年のレビューは、冒頭でこう述べています。「筋トレ中、重い負荷(最大の自発的収縮力の80%を超える)を挙げるとき、または軽い負荷でも挙がらなくなるまで行うときには、短いバルサルバ法は避けられない」。
つまり「絶対に止めないでください」という指導は、ある強度から先では実行不可能なことを求めているということになります。
だからTRADは順番を逆にしています。「止めないようにしましょう」ではなく、「止まらない強度で終わりましょう」です。具体的にはこうなります。
・最後の1回で顔が赤くなって力むような重さは、その日のあなたには重すぎます。1段下げます
・限界まで追い込むのは、40〜60代で始められた方の最初の数か月では必要ありません
・2〜3回は余裕を残して終えます。この余裕があれば、呼吸は自然に続きます
回数と重さの決め方については筋トレは何回×何セットやればいい?をご覧ください。
迷ったときの、現場での3つの手順
ここから書くことは、研究の結論ではなくTRADが現場で使っている方法です。根拠のある話と区別しておきたいので、先にお伝えしておきます。
①数を声に出して数えます。声を出している間は息が止まりません。「いち、に、さん」と小さく言っていただくだけで、止まりかけが分かります。なお、この方法の効果を確かめた研究は見つけられませんでした。あくまで現場で使われているやり方です。
②止まりかけたら、短く「フッ」と吐きます。きれいに吐き切る必要はありません。止まったことに気づいた時点で短く吐けば、それで戻ります。
③それでも止まるなら、重さを下げます。これがいちばん確実です。呼吸が止まるのは、だいたい「その重さが今の体に対して重い」という合図です。フォームを直すより先に、重さを下げるほうが早く解決します。
そして、日常の動作でも同じです。重い荷物を持ち上げるときの呼吸については重い物を持ち上げるとき腰を痛めないためにで扱っています。呼吸そのものと姿勢の関係は浅い呼吸が姿勢を崩す?をご覧ください。
とくに注意していただきたい方
ここは一般論では済みません。次に当てはまる方は、必ず主治医にご確認ください。
・血圧が高い、または治療中の方。同じ筋トレをしたときに、血圧が高い方のほうが収縮期血圧の上がり方が大きかったという観血的な測定の報告があります(高血圧の方10名・血圧が正常な方10名の小規模な研究です)。この研究には「低い強度でも、挙がらなくなるまで行ったときのほうが上がり方が大きかった」という結論もついています。軽い重さを選ぶだけでは足りず、限界まで行かないことがあわせて必要だということです
・心臓の病気、脳血管の病気がある方、または過去にあった方
・目の病気がある方。下肢の等尺性(止めて耐える)運動で眼圧と眼血流圧が上がることを示した、13研究・成人268名のメタアナリシスがあります。ただしこれは運動そのものの影響を見たもので、息を止めることと比べた研究ではありませんし、緑内障の方で確かめられたものでもありません
・妊娠中の方。運動の可否と内容は産婦人科の先生にご確認ください
・運動中にめまい、目の前が暗くなる、頭が強く締めつけられる感じが出たことがある方
血圧が気になり始めた方向けの運動の始め方は血圧が気になり始めたら|40代からの運動の始め方と注意点に、運動を始める前に医師に相談したほうがよい場合は運動を始める前に医師に相談したほうがいい場合にまとめてあります。
TRADが行うのは運動指導とコンディショニングで、診断を行うことはできません。該当する方には、先に主治医のご確認をお願いしています。
ここまでで言えないこと
最後に、調べたけれども言えなかったことも書いておきます。
・「息を止めると脳卒中や網膜剥離になる」とは言えません。確認できたのは一時的な圧の上昇と、まれな症例報告の範囲です
・「短い息こらえなら安全」とも言えません。健康な若年者での報告はありますが、40〜60代で確かめられていません
・めまいや失神が、運動初心者や40〜60代でどれくらいの頻度で起こるのかは分かりませんでした。頻度を調べた調査を見つけられませんでした
・「どの強度から息が止まるのか」を一律に示すことはできません。80%という数字は経験者を含むレビューの記述で、初心者向けの一般ルールではありません
分かっていないことを分かっているように書かないのが、TRADの方針です。
東海市・大府市・知多市から通われている方の実際
TRADに通われている方の多くは40〜60代で、「久しぶりに体を動かす」という方が中心です。実際のところ、息が止まるほど力む重さを使う場面は、最初の数か月ではほとんどありません。
それでも息が止まる方はいらっしゃいます。多いのは「がんばらなければ」と思って、1回ごとに全力を出してしまう場合です。この場合は重さを変えずに、動きの速さと回数の数え方を変えるだけで解決することがあります。
完全個室のマンツーマンですので、呼吸が止まっていればその場で分かります。ご自分では気づきにくいところですので、見ている人がいることの価値はここにあると思います。太田川駅東口から徒歩4分、お車の方には建物北側「5番」の駐車スペースをご用意しています。
参考にした主な研究・ガイドライン
・厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
・厚生労働省「高血圧の人を対象にした運動プログラム」
・American College of Sports Medicine「Exercise for the Prevention and Treatment of Hypertension – Implications and Application」(ACSM公式サイト)
・MacDougall et al.(1985)観血的血圧測定による生理学研究/Journal of Applied Physiology(PMID: 3980383)
・Linsenbardt et al.(1992)呼吸法の比較研究/British Journal of Sports Medicine(PMID: 1623367)
・Hackett & Chow(2013)レビュー/Journal of Strength and Conditioning Research(PMID: 23222073)
・Hummelmann et al.(2026)ランダム化クロスオーバー試験/Physiological Reports(PMID: 41857805)
・Hodges et al.(2005)介入実験/Journal of Biomechanics(PMID: 16023475)
・Li et al.(2021)メタアナリシス/Journal Français d’Ophtalmologie(PMID: 34454773)
・de Souza Nery et al.(2010)観血的血圧測定の比較研究/Clinics(PMID: 20360917)
よくある質問
Q. 筋トレ中に息を止めるのは、絶対にやってはいけないことですか。
「絶対にやってはいけない」と言える根拠は確認できませんでした。厚生労働省の運動ガイド2023は「血圧の急激な上昇を抑えるために、息をこらえないように注意してください」と書いており、米国スポーツ医学会の解説も避けるべきとしています。いっぽうで2013年のレビューは、バルサルバ法に伴う健康上のリスクは未確認のままだと結論しています。TRADは「止めないようにする」よりも「止まらない強度で終える」ほうを先に置いています。息が止まるのは、だいたいその重さが今の体に重いという合図です。
Q. 上げるときに吐くのが正しいのでしょうか。吸うのは危険ですか。
血圧の面で「吐くほうが有利」という比較研究は見つけられませんでした。筋トレ初心者の男性20名を対象にした1992年の研究では、挙げる局面で吸っても吐いても血圧の上がり方は同程度で、息を止めたときがいちばん高くなりました。原著は「吸気を組み合わせることは、呼気に対して心血管系の利点を何ももたらさない」と結論しています。厚労省やACSMも向きは指定していません。向きより、止めないことが大事だとお考えください。なお、挙げるときに吸うと力が出にくい傾向はあります。
Q. 軽い重さなら息を止めても問題ないですか。
軽くても無関係ではありません。健康な若い女性17名に、自重・10回挙上重量の25%・50%という軽〜中くらいの強度でスクワットをしてもらった2026年の研究では、挙げる局面で息を止めると、呼吸を続けた場合に比べて収縮期血圧が16〜23%高く、本人が感じるきつさも14〜19%高くなりました。ただしこの研究は、健康な若い女性ではその反応は危険とは言えない範囲だったと結論しています。17名・若年女性という条件つきですので、40〜60代にそのまま当てはめることはできません。
Q. 息を止めたほうが腰が守られると聞きました。本当ですか。
腹腔内圧が上がることと、背骨の固さが増えることは確認されています。2005年の実験では、横隔膜を電気で刺激して腹腔内圧だけを27〜61%上げたとき、腰の背骨の固さが安静時の8〜31%増えました。ただしこれは息を止めた実験ではなく、人数もごく少数です。そして「息を止めると腰を痛めにくい」ことを比較した研究は見つけられませんでした。また、呼吸を続けたまま腹部を固める方法でも血圧は上がりますので、「息を止めなければ血圧は上がらない」とも言えません。
Q. 血圧が高いのですが、筋トレはしてもいいのでしょうか。
可否の判断は主治医の先生の領域ですので、必ずご確認ください。そのうえで申し上げると、厚生労働省の「高血圧の人を対象にした運動プログラム」は、まず有酸素運動とストレッチングから始め、慣れてきたら非常に軽い筋力トレーニングを加えてもよいという立場です。同じ資料に「筋力トレーニングの際は、息をこらえないように注意してください」「運動中に収縮期血圧が200mmHgを持続的に超えないように注意してください」という記載もあります。TRADは診断を行いませんので、通院されている場合は運動の制限が出ているかをうかがいます。
姿勢評価つきの体験を受付中|東海市のパーソナルトレーニングジムTRAD
呼吸が止まっているかどうかは、ご自分では意外と気づけません。完全個室のマンツーマンですので、その場でお伝えできます。TRADは姿勢・動作の評価から始めて、今の体に対して重すぎない強度から組み立てます。太田川駅東口から徒歩4分、駐車場もございます。姿勢評価つきの体験トレーニングは90分・2,750円(税込)で、ご予約確定後の確認メールから事前にお支払いいただけます。
その場でのご契約はお願いしていません。じっくりご検討ください。ご予約は公式LINE、または予約サイト(空き状況を見る)から承っています。

