信号が点滅し始めると渡りきれるか不安になる、家族と歩くと置いていかれる、人によく追い抜かれるようになった——歩く速さは、体の変化がいちばん早く表に出るところのひとつです。65歳以上の34,485名を集めた解析では、歩く速さが0.1m/秒速いごとに、その後の死亡のハザード比が0.88と報告されています。ただし先にお断りしておきます。これは観察研究であり、「速く歩けば長生きする」という因果を示したものではありません。東海市・太田川駅から徒歩4分のTRADパーソナルコンディショニングジムが、数字の意味と、自分で測る方法、そして何を鍛えるとよいのかを整理します。
要点まとめ
・歩く速さは、筋力・バランス・心肺機能・神経の働きがまとめて表れる指標として扱われています
・65歳以上34,485名の解析では、0.1m/秒速いごとに死亡のハザード比0.88(95%信頼区間0.87〜0.90)でした
・ただしこれは観察研究です。速く歩く練習をすれば寿命が延びる、という意味ではありません
・日本の65歳以上1,779名を20年追跡した研究では、最も遅いグループで要介護の発生リスクが高いという結果でした
・50〜60代の日本人の基準値は、今回の調査では確立したものを見つけられませんでした
・遅くなる背景のひとつにふくらはぎ(足関節を伸ばす筋肉)の衰えがあると報告されています
・筋力トレーニングで通常歩行速度が改善した報告はありますが、改善量は0.05m/秒とごく小さいものでした
歩く速さは何を映しているのか
9つの研究をまとめ、地域で暮らす65歳以上34,485名を対象にした解析があります(Studenski et al. 2011)。平均年齢73.5歳、女性59.6%、追跡は6〜21年です。開始時点の平均歩行速度は0.92m/秒でした。
・追跡中に17,528名が亡くなり、5年生存率は84.8%、10年生存率は59.7%でした
・歩行速度が0.1m/秒速いごとに、死亡のハザード比は0.88(95%信頼区間0.87〜0.90、p<0.001)でした
・75歳時点で予測される10年生存率は、歩く速さの違いによって男性で19〜87%、女性で35〜91%まで幅がありました
・年齢・性別・歩行速度から予測した生存率は、年齢・性別・慢性疾患・喫煙歴・血圧・BMI・入院歴から予測したものと同程度に正確でした
・原典の結論は「9つの選ばれたコホートの個人データのプール解析において、歩行速度は高齢者の生存と関連していた」というものです
最後の項目が、この指標が注目される理由です。歩く速さという1つの数字が、いくつもの検査項目とほぼ同じだけの情報を持っていたということになります。歩くという動作には、脚の筋力、バランス、心肺機能、神経の働き、関節の動く範囲、痛みの有無までが同時に関わるためだと考えられています。
🚫 ただし、これは観察研究です。「速く歩ける人のほうが長生きしていた」という関連であって、「速く歩く練習をすれば寿命が延びる」ことを示したものではありません。速く歩ける体があるから結果も良かった、という順番も十分ありえます。ここを取り違えないでください。
日本のデータはどうなっているか
愛知県大府市にある国立長寿医療研究センターが、65歳以上で要介護認定を受けていなかった1,779名を対象に、歩行速度とその後20年間の要介護発生リスクとの関連を調べています(NILS-LSAの研究。論文はZhang et al. 2022)。
男女別に歩行速度で5つのグループに分けた結果が公開されています。
・第3グループ(平均的な速さ)…男性の平均が秒速1.32メートル、女性の平均が秒速1.26メートル
・第1グループ(最も遅い)…男性の最大値が秒速1.15メートル、女性の最大値が秒速1.12メートル
・第3グループと比べて、第1グループの要介護発生リスクが高いという結果でした(性別で分けても同じ)
・さらに最も速い第5グループは、男性において要介護発生リスクが低いという結果でした
・年齢・性・調査時期・BMI・喫煙・教育歴・抑うつ症状・既往歴(脳卒中、高血圧、糖尿病)・総身体活動量を調整したうえでの結果です
同センターの解説には、サルコペニア(加齢による筋肉量の減少・筋力低下・身体能力低下)の診断基準(AWGS2019)で歩行速度が秒速1メートル未満という値が採用されていること、そして日本人高齢者の歩行速度が過去20年間で上昇していることも書かれています。そのうえで「日常生活で少し速く歩くことは、要介護予防に有用と言えそうです」と結ばれています。
あわせて「ただし、無理に早歩きすると転倒の危険性があります。また、高齢者の場合は運動のしすぎで血圧の上昇や不調を招くこともあります」という注意も書かれています。ここも一緒に受け取ってください。
🚫 この研究も観察研究です。そして対象は65歳以上のみで、40〜60代の基準値ではありません。
50〜60代の基準値は、見つかりませんでした
正直に書きます。「60代は秒速1.3メートル、70代は1.1メートル」といった年代別の数字はインターネット上によく出回っていますが、今回の調査では、その出どころとなる一次資料を確認できませんでした。
スポーツ庁の体力・運動能力調査の項目も確認しましたが、握力・上体起こし・長座体前屈・急歩・6分間歩行などはあるものの、通常の歩行速度を単純に測る項目は見当たりませんでした。
ですのでこの記事では、年代別の平均値は示しません。使えるのは、65歳以上について日本のデータがあるところまでです。
自分で測る方法
数値そのものより、同じやり方で、半年後にもう一度測って比べることのほうが役に立ちます。ご自宅や近所でできる形をご紹介します。
1. まっすぐで平らな場所に、5メートルの区間を作る…廊下や公園の通路など。床が滑らないところを選びます
2. その前後に2〜3メートルの助走と減速の区間を取る…スタートとゴールの瞬間に速さが変わるのを避けるためです
3. いつもどおりの速さで歩き、5メートル区間の通過時間を計る…「速く歩こう」とはしません。ふだんの速さで歩きます
4. 計算する…5 ÷ かかった秒数 = 秒速(メートル)です。たとえば4秒なら5÷4=1.25m/秒になります
5. 2〜3回測って、真ん中の値を使う…1回だけだとぶれます
目安として、警視庁は、歩行者用信号の青時間について「一般的には歩行速度を秒速1メートルとして道路を渡りきれるよう調整しています」と説明しています。横断歩道を渡りきるのがぎりぎりだと感じるなら、秒速1メートル前後まで落ちている可能性があります。
⚠️ 注意が2つあります。研究によって測る距離も、助走の有無も違いますので、ご自宅で測った数値を研究の数字と厳密に比べることはできません。また杖を使っている方、痛みがある方、ふらつきのある方は、必ず付き添いの方と一緒に行ってください。
ほかのセルフチェックはロコモ度テストのやり方、片脚立ちは何秒できますか?、50代からの体力チェックもあわせてどうぞ。
なぜ遅くなるのか
歩く速さは、単純に歩幅と、1分間に出る歩数の掛け算で決まります。どちらが落ちても遅くなります。
その背景として、ふくらはぎ(足首を伸ばす筋肉)に注目した分析があります(Etheve et al. 2025)。60歳以上を含む年齢群を比べた横断研究11件が対象です。
・加齢とともに足関節を伸ばす筋肉の筋力が有意に低下(効果量1.06)
・筋肉とアキレス腱の硬さも低下(0.76)、筋の体積・厚みも低下(1.37)
・筋力の低下は、歩く速さの低下、足首で生み出す力の低下、安定性の低下、エネルギー消費の増加と関連していました
・アキレス腱の硬さの低下は歩行の効率の低下と、筋の硬さの低下は歩幅の短縮と最大歩行速度の低下と関連していました
・筋の体積・厚みの低下は、歩幅の短縮と足首のトルクの低下と関連していました
🚫 これは横断研究です。年齢の違う人どうしを比べたもので、同じ人を追いかけて「筋力が落ちたから遅くなった」と示したわけではありません。関連しているというところまでです。
とはいえ、地面を後ろに押して前に進む動作の最後の一押しがふくらはぎであることを考えると、腑に落ちる結果ではあります。足首の硬さが気になる方はしゃがむとかかとが浮く原因もご覧ください。
運動で速くなるのでしょうか
改善はします。ただし小さい
移動に支障のある高齢者を対象にした24件のランダム化比較試験(3,656名、63〜83歳)をまとめた分析があります(Prevett et al. 2022)。介入期間は10週間から18か月です。
・通常の歩行速度が平均0.05m/秒改善(95%信頼区間0.03〜0.07、p<0.001)
・6分間歩行距離が16.1メートル改善(12.27〜19.94)
・下肢の筋力は標準化平均差2.01と大きく改善
・いっぽう最大努力での歩行速度と、身体機能テスト(SPPB)には有意な効果がありませんでした
0.05m/秒というのは、5メートル歩くのにかかる時間が4.00秒から3.92秒になる程度です。正直に申し上げて、体感できる大きさではありません。「筋トレをすれば見違えるほど速くなる」わけではないということです。
「筋トレでなければならない」とも言えません
2026年に出た大きな分析があります(Jochum et al. 2026)。92件の研究、5,932名(平均年齢73.1±4.9歳)が対象です。
・何もしない対照群と比べると、筋力は大きく改善(効果量0.86)、歩行に関する指標全般は中程度の改善(0.59)。歩行速度は0.41でした
・ところがストレッチ・ウォーキング・多要素運動などの他の運動と比べると、Timed Up and Go以外に差が見られませんでした
・原典は、筋力トレーニング特有の効果が、他の運動との差がわずかであることによってぼやけてしまったとし、現行のガイドラインに疑問を投げかけると述べています
・いっぽうで指導がついていること、強度を段階的に上げていくこと、多関節の下肢種目(レッグプレス、スクワット、足関節の底屈、膝の伸展)を含むことが、結果に良い方向に働いていました
この最後の一文が、実務的にはいちばん使えるところだと思います。種目の名前より、「見てもらいながら」「少しずつ重くしながら」「脚全体を使う種目を入れる」ことのほうが効いていたということです。ウォーキングそのものについてはウォーキングだけで体は変わるのか?でご説明しています。
TRADでの組み立て方
研究から言えることを踏まえて、TRADでは次の順番で見ています。
1. 歩幅が狭いのか、歩数が出ないのかを分ける…同じ「遅い」でも、対応が変わります
2. ふくらはぎを鍛える…最後の一押しをつくる筋肉です。カーフレイズのやり方が基本になります
3. 片脚で支える力をつける…歩行は片脚立ちの連続です。スプリットスクワットのような左右に分かれた種目を使います
4. 股関節を後ろに使えるようにする…歩幅は、前に出す長さより後ろに残せる長さで決まる部分があります
5. 速さそのものを練習する…力の大きさと、力を出す速さは別物です。階段の上り下りがきつい50代へでご説明した考え方と同じです
歩数の目安については1日何歩歩けばいい?、つまずきやふらつきが気になる方は40代からのつまずき・ふらつきをあわせてご覧ください。
ご相談いただきたい場合
歩くと脚が痛む・しびれる、少し歩くと休まないと進めない、数か月のうちに急に遅くなった、ふらつきやめまいがある、すでに転んだことがある——こうした場合は、運動を始める前に医療機関にご相談ください。歩く速さが落ちる背景には、運動以外の要因(関節・神経・血管・視力・お薬など)が関わることもあります。
TRADは運動指導を行う施設であり、医療機関ではありません。痛みや症状の原因を判断することはできませんし、この記事も診断の代わりになるものではありません。
TRADでのご案内の仕方
TRADでは、最初の姿勢と動作の評価で、歩幅、足の運び、片脚で支えられる時間、足首や股関節の動く範囲を確認します。そのうえで、ふくらはぎから始めるのか、股関節から始めるのか、バランスから始めるのかを決めます。
数字は、半年後にもう一度測ったときに意味が出ます。TRADでは記録を残しますので、前と比べてどうかを毎回ご覧いただけます。東海市・太田川駅から徒歩4分、完全個室・駐車場もございます。大府市・知多市・常滑市からお越しの方も多くいらっしゃいます。
参考にした主な研究・ガイドライン
・Studenski et al.(2011)9コホートのプール解析/JAMA(PubMed)
・Zhang et al.(2022)20年前向きコホート研究(NILS-LSA)/Geriatrics and Gerontology International(PubMed)
・国立長寿医療研究センター「歩行速度と要介護との関連性」(すこやかな高齢期をめざして)
・Etheve et al.(2025)システマティックレビュー+メタ分析/Journal of Biomechanics(PubMed)
・Prevett et al.(2022)システマティックレビュー+メタ分析/Archives of Physical Medicine and Rehabilitation(PubMed)
・Jochum et al.(2026)システマティックレビュー+多水準メタ分析/GeroScience(PubMed)
・警視庁「横断歩道の信号の青時間について」(歩行者用信号の設計に関する説明)
1日の歩数の目安そのものは1日何歩歩けばいい?で、1万歩の由来と年代別の参照点を整理しています。
よくある質問
Q. 歩くのが遅くなったら、どのくらい心配したほうがよいですか。
数字だけで心配しすぎる必要はありませんが、指標としては意味があります。65歳以上34,485名を集めた解析では、歩行速度が0.1m/秒速いごとに死亡のハザード比が0.88でした。ただしこれは観察研究であり、速く歩けば長生きするという意味ではありません。むしろ大切なのは、歩くという動作に脚の筋力・バランス・心肺機能などが同時に関わるため、速さの変化がそれらの変化を早く映すという点です。数か月のうちに急に遅くなった場合は、医療機関にご相談ください。
Q. 60代の平均的な歩く速さはどのくらいですか。
50〜60代の日本人の基準値は、今回の調査では確立したものを見つけられませんでした。インターネット上には年代別の数字が出回っていますが、その出どころとなる一次資料を確認できませんでしたので、この記事では示していません。65歳以上については日本のデータがあり、国立長寿医療研究センターの研究では、平均的な速さのグループが男性で秒速1.32メートル、女性で秒速1.26メートルでした。
Q. 自宅で歩く速さを測るにはどうすればよいですか。
まっすぐで平らな場所に5メートルの区間を作り、その前後に2〜3メートルの助走と減速の区間を取ります。いつもどおりの速さで歩いて5メートル区間の通過時間を計り、5をその秒数で割ると秒速が出ます。4秒なら1.25m/秒です。2〜3回測って真ん中の値を使ってください。ただし研究ごとに測り方が違うため、ご自宅の数値を研究の数字と厳密に比べることはできません。半年後に同じやり方で測り直して比べるほうが役に立ちます。
Q. どこを鍛えると速く歩けるようになりますか。
ふくらはぎ(足首を伸ばす筋肉)は有力な候補です。11件の横断研究をまとめた分析では、加齢によるこの筋肉の筋力低下が、歩く速さの低下や足首で生み出す力の低下と関連していました。ただし横断研究ですので、鍛えれば速くなるという因果を示したものではありません。筋力トレーニングの効果を調べた分析では通常歩行速度が平均0.05m/秒改善しましたが、これは5メートルを4.00秒から3.92秒で歩く程度の差で、体感できる大きさではありません。
Q. 筋トレとウォーキング、どちらがよいのでしょうか。
92件・5,932名を集めた2026年の分析では、何もしない群と比べると筋力トレーニングで歩行速度が改善しましたが(効果量0.41)、ストレッチ・ウォーキング・多要素運動などの他の運動と比べると、Timed Up and Go以外に差が見られませんでした。原典は現行のガイドラインに疑問を投げかけるとまで述べています。むしろ結果に良い方向に働いていたのは、指導がついていること、強度を段階的に上げること、脚全体を使う種目を含むことでした。
姿勢評価つきの体験を受付中|東海市のパーソナルトレーニングジムTRAD
歩幅が狭いのか、足が出ないのか。同じ「遅くなった」でも、見るところが変わります。TRADは、鍛える前に姿勢・動作を評価してから進める完全個室のパーソナルジムです。記録を残しますので、半年後に同じ測り方で比べられます。太田川駅から徒歩4分、駐車場もございます。姿勢評価つきの体験トレーニング(90分)は2,750円(税込)です。ご予約後にお送りするご確認メールから、事前にお支払いいただけます。
その場でのご契約はお願いしていません。内容を見たうえで、じっくりご検討ください。ご予約は公式LINE、または予約サイト(空き状況を見る)から承っています。

